はじめに|この見積もり、本当に正しいのか?
退去後に管理会社から届いた原状回復の見積もりを見て、「え、こんなにかかるの?」と思ったことはありませんか?
特に収納棚や造作家具の撤去費用は、業者によって2~3倍もの差が出やすい項目です。「壁補修も必要」「処分費は別途」と後出しで請求が膨らむケースも珍しくありません。
本業を持ちながら物件を管理するサラリーマン大家にとって、一件一件の退去対応に時間をかけられないのが現実。でもだからこそ、相場感と正しいルールを知っておくことが、大切な利益を守る最短ルートです。
この記事では、造作物の撤去にまつわる費用相場・トラブル事例・交渉術・費用削減テクニックを、実務目線でまるごと解説します。
1. 造作家具・収納棚の撤去費用│相場表で一目瞭然
1-1. サイズ別の撤去費用(相場表)
まずは費用の全体感を把握しましょう。造作家具の撤去費用は、サイズ・素材・固定方法によって大きく変わります。
| 種類 | 目安単価 | 備考 |
|---|---|---|
| 小型棚(1~2個) | 8,000~15,000円/個 | 置き型・壁掛け問わず |
| 大型造作棚(壁面) | 30,000~80,000円/㎡ | 木製より金属製が高め |
| クローゼット棚板 | 3,000~5,000円/枚 | 既製品か造作かで変動 |
| 処分費(産廃含む) | 5,000~20,000円 | サイズ・素材・重量による |
1戸あたりの総額目安は50,000~150,000円。ただしこれはあくまで目安であり、棚の数・規模・劣化状況によっては大きく上振れします。
💡 ポイント:見積書の「撤去費」に処分費が含まれているかどうかを最初に確認する習慣をつけましょう。これだけで数万円の誤認を防げます。
1-2. 処分費は別途か込みか|業者による大きな差
「撤去費」という一言でまとめられた見積もりでも、処分費が含まれているかどうかは業者によってまちまちです。
実務では以下のような表記の違いに注意が必要です。
- ✅ 「撤去・処分込み」→ 追加請求なし
- ⚠️ 「撤去のみ」→ 処分費5,000~20,000円が別途発生
- ❌ 「一式」→ 何が含まれているか不透明
見積書を受け取ったら、「処分費は含まれていますか?」と一言確認するだけで、後からのトラブルをかなり防げます。電話でもメールでも、一言聞く習慣が大家を守ります。
1-3. 壁補修費との切り分けが費用を左右する
収納棚を壁にビスで固定していた場合、撤去後に穴・シミ・石膏ボードの破損が残ることがあります。ここで問題になるのが「壁補修費を撤去費に含めるか、別途請求するか」という切り分けです。
国交省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」では、以下のように定義されています。
「画鋲・ピン・クギ程度の穴は通常損耗として賃貸人(大家)負担。ただし、壁に大きなビス穴を開けた造作棚の固定跡などは、用法違反として賃借人負担となりうる」
つまり、軽微なビス穴ならパテ埋め程度(3,000~5,000円)で十分であり、石膏ボードの全面交換や壁紙の張り替えまで請求されるのは過剰な場合がほとんどです。
2. よくあるトラブル事例3パターン│大家が負けるケース
2-1. 「撤去するなら壁補修も必須」という追加請求
造作物の撤去に絡んで最も多いのが、「撤去したら壁に穴が残るので、補修もセットでやらなければなりません」という管理会社や業者の主張です。
実態はこうです。
- ビス穴数か所 → パテ埋め(3,000~5,000円)で十分
- 壁紙への軽微な汚れ → 部分補修(5,000~10,000円)が適正
- 石膏ボード全面交換 → 本当に必要なケースは限定的
「棚を撤去するついでに全部やりましょう」という提案は、オーナーにとって一見便利に聞こえますが、実際は割高な作業をセット販売されているケースが非常に多いです。
📌 見抜き方:見積書の「壁補修」の内訳を必ず確認。「㎡単価×全面」という見積もりが出たら、「破損箇所の写真と具体的な範囲を教えてください」と聞きましょう。
2-2. 処分費の二重計上
「撤去費」と「廃棄物処理費」が別々に計上され、合計すると相場の2倍近くになるケースもあります。
【見積もり例(要注意)】
・収納棚撤去費:50,000円
・廃棄物運搬費:15,000円
・廃棄物処理費:12,000円
・合計:77,000円
→ 処分費が実質2項目に分かれている可能性あり
適正な見積もりであれば、撤去と処分をまとめて50,000~60,000円程度に収まるはずです。項目が細かく分かれているほど、内容の確認が必要と覚えておきましょう。
2-3. 入居前からの既存破損を退去時の破損として請求
「入居時には棚が綺麗だったのに、退去時にこんな傷が…」という主張も、入居時の写真・動画記録がない場合には反論が難しくなります。
造作物の状態は、入居前に必ずドキュメント化しておくことが大前提です。写真1枚が数万円の無駄な支出を防ぎます。
3. 管理会社との交渉術|角を立てずに費用を下げる
副業大家にとって管理会社は長期的なパートナー。「費用に納得がいかない」と感じても、感情的に押しつけるのは禁物です。データと根拠を示しながら、穏やかに確認する姿勢が交渉の鉄則です。
3-1. 最初の一手|メール確認テンプレート
件名:退去精算見積もりの内訳確認について
○○管理株式会社 ご担当者様
いつもお世話になっております。
先日ご送付いただいた退去精算の見積もりについて、
内容確認のためいくつか教えていただけますでしょうか。
① 撤去費(○○円)に処分費は含まれていますか?
② 壁補修の範囲(㎡数)と補修方法を教えてください。
③ 破損箇所の写真があれば共有いただけますか?
国交省ガイドラインも参考に確認しております。
ご多用のところ恐縮ですが、よろしくお願いいたします。
(氏名)
このメールのポイントは3つです。
- 感情的にならず、事実確認の体裁をとる
- 国交省ガイドラインに言及することで、過剰請求のけん制になる
- 写真・証拠の提示を求め、曖昧な請求に根拠を求める
3-2. 口頭交渉のトークスクリプト例
「ガイドラインを確認したところ、軽微なビス穴はパテ埋め程度が適正とのことで、石膏ボードの全面交換は今回は難しいと考えています。破損の状況によっては個別に検討しますので、現場写真と範囲を確認させてもらえますか?」
重要なのは「否定」ではなく「確認」という姿勢。「それはおかしい」ではなく「確認させてください」というフレームで話すと、管理会社との関係を損なわず、不当な請求を抑制できます。
4. 費用を下げるための実践テクニック
4-1. 相見積もりは必須(最低3社)
造作家具の撤去費用は、同じ条件でも業者によって2~3倍の差が出ることがざらにあります。管理会社が提示する業者は必ずしも最安ではありません。
【相見積もりのルール】
✅ 最低3社から取得
✅ 同一条件(棚の数・㎡数・破損状況)で依頼
✅ 処分費込みかどうかを統一して比較
✅ 見積書は書面でもらう(口頭は厳禁)
4-2. 「撤去」と「処分」の分離発注
撤去作業と不用品の処分を別業者に依頼することで、コストを下げられる場合があります。
- 撤去のみ:内装業者やリフォーム会社に依頼
- 処分のみ:不用品回収業者(数千円~)に依頼
ただし分離発注は手間がかかるため、物件が遠方の場合や管理会社に一任している場合は難しいことも。費用対効果を見極めて判断しましょう。
4-3. 退去後のリフォームと同時施工でコストを抑える
壁補修・クリーニング・リフォームを同じ業者にまとめて依頼すると、交通費・諸経費が1回分で済むため、トータルで安くなるケースがあります。退去後の原状回復をリフォーム工事とセットで発注するタイミングを狙うのも有効な戦略です。
5. 国交省ガイドラインの活用法
5-1. 大家負担と入居者負担の判断基準
国交省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」は、副業大家にとって最も頼りになる公式資料です。造作物に関する主なルールは以下のとおりです。
| 状況 | 負担者 | 根拠 |
|---|---|---|
| 入居者が持ち込んだ造作物の撤去 | 入居者負担 | 通常損耗の対象外 |
| 大家が設置した棚の経年劣化 | 大家負担 | 通常損耗の範囲内 |
| 軽微なビス穴・クギ穴の補修 | 大家負担 | 通常損耗として許容 |
| 大きなビス穴・壁面破損(入居者起因) | 入居者負担 | 故意・過失による損耗 |
5-2. 入居前の記録が「証拠」になる
ガイドラインを活用するためには、入居前の状態を証明できる記録が不可欠です。
- 入居時チェックシート(棚の状態・傷・汚れを記録)
- 写真・動画(全方向から撮影、日付入り)
- 造作物の設置確認書(入居者が設置したものは書面で残す)
これらがあれば、「退去時の傷が入居者の責任か、もともとあったものか」を明確に示せます。証拠がなければ、大家側が不利になるケースが多いのが現実です。
5-3. ガイドラインは「交渉カード」として使う
「国交省のガイドラインでは…」と言及するだけで、管理会社や業者側が過剰な請求を引き下げるケースは少なくありません。感情論ではなく、公的なルールに基づいた主張は、管理会社との関係を損なわずに交渉を進める最も有効な武器です。
まとめ|副業大家が今すぐできる3つのアクション
造作家具・収納棚の撤去費用は、知っているだけで数万~十数万円の差が生まれる項目です。最後に、今すぐ実践できる3つのアクションをお伝えします。
✅ アクション①:入居時の記録を徹底する
写真・動画・チェックシートで棚や造作物の状態を証拠として残す。これが原状回復交渉の土台になります。
✅ アクション②:見積もりは必ず3社以上で比較する
管理会社の提示額を鵜呑みにせず、相見積もりで相場感を確認。「撤去込み」「処分込み」の条件を統一して比較しましょう。
✅ アクション③:国交省ガイドラインを手元に置く
過剰請求を感じたときは、ガイドラインを根拠に「確認」ベースで交渉。感情ではなく根拠で話すことが、管理会社との関係を守りながら費用を抑える最善策です。
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本記事は国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(改訂版)」を参考に執筆しています。個別の状況については、専門家にご相談ください。
よくある質問(FAQ)
Q. 収納棚の撤去費用の相場はいくらですか?
A. 小型棚8,000~15,000円/個、大型造作棚30,000~80,000円/㎡が目安。1戸あたり総額50,000~150,000円程度ですが、処分費の扱いで大きく変わります。
Q. 撤去費と処分費は別途請求されることがありますか?
A. はい。業者によって「撤去・処分込み」と「撤去のみ」で表記が異なります。見積書受取時に「処分費は含まれているか」を確認することで、後からの追加請求を防げます。
Q. 棚を撤去した後の壁の穴は誰が補修するのですか?
A. 軽微なビス穴はパテ埋め程度(3,000~5,000円)で大家負担が多いです。石膏ボード全面交換まで請求されるのは過剰な場合がほとんど。国交省ガイドラインを参考に判断してください。
Q. 壁補修費を一緒に請求される場合、いくらが適正ですか?
A. ビス穴数か所なら3,000~5,000円、壁紙軽微汚れなら5,000~10,000円が適正。「全面」という見積もりが出たら、破損箇所の写真確認と具体的範囲の説明を求めましょう。
Q. 見積もりで処分費が二重に計上されていないか確認する方法は?
A. 「撤去費」「廃棄物運搬費」「廃棄物処理費」など複数項目がある場合、その内訳と合計額が相場の2倍になっていないか確認。疑わしい場合は業者に詳細説明を求めてください。

